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ハーモニーの歴史15 [連載読み物]

成り立ちの歴史からハーモニーをやんわりと解説するシリーズの続きです。長らく続いたこのシリーズ、今回で最終回です。

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第15回:崩壊?創造?(テンション編3)

15_Tristan und Isolde
R. ワーグナーのトリスタンとイゾルデの冒頭
青枠部は通称“トリスタン和音”
ハーモニーの崩壊を導いた有名な響き
無理やりコード名をつけてみましたが、、、

前回は、テンション・コードを多用した場合の制約を説明しました。テンションの華やかな響きを得る代償として、コード進行がワンパターン化しやすいと言うことです。ただし、19世紀の終わり頃、時代がもう少し進むとテンション・コードは、これらの制約を乗り越えると共に、調性と言うヨーロッパ音楽の基幹をも破壊することになります。

そのもう一つの立役者は変化和音です。変化和音とテンション・コードは分けて考えるべきと説明しましたが、当時の作曲家は、その境をあえて曖昧にする事により、新しい和音(もしくは調性の崩壊)を作り出しました。例えば、7th音にシャープやフラットを付け、これを、一次的な不協和音として使うのではなく、和音の主役として使用します。これにより、トニックへ進むべき本来のドミナント・モーションの機能が曖昧になります。

同様にテンション音にシャープやフラットをつけて音程を変化させると、本来の調(キー)のコードではなく他の調性のコードに聞えてきます。つまり、一つのコードに復数の調性が現れます。特に、トニック(ベース音)を削除すると、ほとんど本来の調性が分からなくなります。よって、本来の調で進んでいるハーモニーの上で、別の調性のハーモニーが入れ代り立ち代り現れることになり、要のドミナント・モーションが消えていきます。これにより、ドミナント・モーションの制約から解放されて、あらゆる音を使う事が出来ます。よって、(うまくいけば)多彩な響きが可能になります。

さらに進むと3度音の積み重ねも突き崩すことが可能です。13thのコードに変化和音を用いると、結果として、1オクターブ内にあるすべての音(白鍵、黒鍵すべてを含む12音)を使う事ができます。つまり、コードの音の選び方に制約がなくなってしまいます。その中から適当な音だけを選んでいけば、長短を含めた2度の音程を重ねる事も選択できます。これを進めると、3度音程のないハーモニーが出現します。特に、全音音階を併用すると復調を超えて無調をも得る事が出来ます。

テンション・コードは、不協和音に近いものです。それを違和感なくコード進行の中に入れこむのが、ドミナント・モーションの力です。変化和音により、あえてその後ろ盾を外すことにより、限りなく大きな自由を得たと言えるでしょう。ここまで来ると、調性の崩壊につながります。すべての音を自由に使えるということは、すばらしい可能性を得ると同時に、何も規則がない事を意味します。

ヨーロッパの音楽は、調性と言う規則の元にハーモニー、そして音楽そのものを発展させてきました。しかし、ハーモニーを発展させる為に、自らその規則を取り崩してきたと言えます。その結果として、終焉を迎えることになりました。