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短歌→小説→作曲 [雑感]

今回は趣向を変えて作曲にまつわる、ちょっと"文学的"な雑記です。以前、メロディーが浮かぶ時の事を書きました(こちらこちら)。頭の中で感じた混沌とした思いを曲にしていく過程は、自分でもさまざまな道のりがあります。その辺を書いてみます。
 
”Blue blossoms in the dark 
 
作曲に限らず、多くの芸術は人の感情を形にするものだと思いますが、頭で感じたことをすぐにメロディーに置き換えられるわけではありません。楽器を持って四苦八苦してもどうにもならず、時間をかけて頭の中で熟成していくしかないように思います。

音楽は他の芸術のように下書きやスケッチのような断片を書き出しにくいので、音を出す前に、一旦、イメージを絵や文章などに書き出すと頭の中で焦点を絞りやすいようです。(へたくそですけど)絵を描くのも好きなのでメロディーを書き出す時のメモの譜面にいたずら書きをよくします。

歌物の場合は断片だけでも歌詞を書き出すとメロディーをまとめやすくなります。やはり、感情を表現する上で文字の力は絶大だと感じます。なので、インスト曲の場合でも、始めに仮のタイトルを決めてから作曲を始めるようにしています。タイトルだけでも文字でイメージが固まります。

今回は変わったところで、文字からインスト曲を作曲した例です。曲は4th アルバムに収録した"Blue in the dark"です。この曲は、桜を写したある写真に感動して、まず始めに次の短歌を作りました。
(以下、Facebookには既出です。スイマセン。)

  漆黒の 闇に溶け込む 花の色 君への思い 仄かに染むる

次にこの短歌を元に短い小説を書きました、ちょっと長くなりますが全文を掲載します。

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  "Blue blossoms in the dark"

 僕はその写真をくいるように見ていた。なぜ、そんなに引き込まれたのかは、その時は分からなかった。その写真は放課後の教室の僕の机の上に無造作に置かれていた。誰が置いたのかは分からない。

 夏を予感させるような春の終わりの暖かい風が高校の教室の窓から舞い込んでくる日だった。教室はすでに僕一人きりだった。きっと、誰かが置き忘れた写真が風に舞って僕の机に運ばれてきたのだろう。それは風景を撮った、ごく普通の写真だった。暗闇でおぼろげに桜の花が映っている。多分、1月ほど前のスナップ写真だろう。でも、その写真の中で桜の花は青く輝いて、僕に何かを訴えているように思える。何故なのだろう。

 突然、大きな音を立てて教室の扉が開いた。僕は現実に戻って背後の扉を見た。彼女の視線が真っ直ぐに僕を見ていた。僕は何事か分からずに彼女を見つめ返す。ほんのしばらく無言の時が流れ、僕の持っている写真を彼女が見ていることに気がついた。やっと事態が呑み込めて彼女に話しかける。
 「この写真、君の? 僕の机の上にあったんだ」
彼女は一瞬考えたようなそぶりを見せた後、僕の方に近づきながら答える。
 「うん。机の上に忘れちゃったんで、取りに来たんだ」
 彼女は帰宅の途中で慌てて戻ってきたようで、制服の胸に鞄を抱えて息を弾ませていた。そして、僕のそばにきて、僕の手の中の写真を覗き込む。いつも教室で会っている彼女とは違う、ほのかな笑顔を見せた。きっと、忘れた写真をみつけて、ほっとしたのだろう。でも、僕は少しドギマギした。教室で二人きりだからかもしれないし、写真に引き込まれてまだ幻想の中にいたのかもしれない。
 「写真、みつかって良かった」
 今度は、彼女がいつもの笑顔で話しかける。その一言で、僕は、やっと、いつものペースに戻った。
 「この写真、君が撮ったの?」
 「うん、綺麗に撮れたから、友達に見せようと思って学校に持ってきたんだ」
 「本当に綺麗に撮れているね。ちょっと、見いっちゃったよ」
 「本当? そう言ってくれると嬉しいな。友達はみんな興味なかったみたい」
 そう言って、彼女は、またさっきのほのかな笑みを浮かべた。その笑みの深みにある何かを見たような気がした。それは、写真の中で桜の花を照らしているほのかな青い光と同じかもしれない。それらは僕の心を引き込む力を持っているのかもしれない。

 僕は写真を彼女に手渡して、彼女に話しかける。
 「良かったら、一緒に帰る?」
 彼女は、またほのかな笑みを浮かべて、僕を見てうなずく。夏を予感させながら舞う温かい風を残して、僕らは教室を後にした。
                 
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - Copyright 2012 Katsumi Ochiai 

その後、この小説の着想を元にメロディーを作り曲に仕上げました。おとなしい曲が多い4th アルバムの中で、この曲は唯一ハードロックぽいので、この小説からはギャップを感じるかもしれませんね。自分的には、登場人物の女の子の心情にピッタリ当てはまりますが、、、。

最終的に曲名から"blossoms"を削除しましたが、その方がいろいろな意味に取りやすいかと思ったからです。インストの場合、作り手の思いを強要するのは粋ではない気がするので、タイトルはなるべく抽象的にしています。

と言った感じです。再アップですが、曲もアップしておきます。長文で失礼しました、、、。

 
Copyright 2014 Katsumi Ochiai 

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コメント 4

saia

短歌だけでもすごい!と思ったのに、小説も・・・
何だか、自分の高校の時の教室や黒板や廊下や窓から入ってくる風に揺れていたカーテンを思い出して、一瞬タイムスリップしたような感覚を味わいました。
フルーツを食べた後のような爽やかな満足感。
曲のムードが小説とギャップ、とおっしゃいますが、いえいえとってもしっくりきます!
ステキです!
今回はOK-ROCKさんの新たな側面と才能を知ることができて、とても嬉しかったですヾ(≧▽≦)ノ

by saia (2016-03-19 15:12) 

ok-rock

>saiaさん
今回は長文でしたが、読んでいただいてありがとうございます。
小説を読んだり文章を書くのは好きですが、短歌や小説は見よう見真似で自信がありません。作曲のようにたくさんは作ってないので、思ったようには書けませんね。でも、少しはイメージが伝わったようで安心しました。
フルーツを食べた後のようなと言うのは面白い感想ですね。まあ、甘くて酸っぱい青春ですかね?

by ok-rock (2016-03-19 19:52) 

rimix

ok-rockさんは、小説が好きですよね。
ツイートに「読破」の文をよく見ます。
私は…活字が並ぶと…瞼が重く…(笑)
すいません、教養が無くて。。。
Blue blossoms in the dark 再度聴かせていただきましたが、スケール感が大きくていい曲ですよね。
私のイメージでは、そよ風が吹く草原で過去を思い出している情景でしょうか。。。
イメージが違っていたらごめんなさい。
by rimix (2016-03-20 10:52) 

ok-rock

>rimixさん
小説はとても好きで、一番の趣味かもしれません。趣味と言うよりいろいろな意味で生きてくためのエネルギー源かもしれません。しばらく小説を読まないとイメージが浮かばなくなって曲が作れなくなるんですよ。
曲は人それぞれにイメージしてもらえれば良いと思います。自分も思いはありますけど、具体的な風景やストーリーがあるわけではない場合が多いです。
by ok-rock (2016-03-20 13:31) 

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